2026年、日系製造業が直面する採用課題ーーなぜ台湾の日系企業は「即戦力エンジニア」の確保に苦戦しているのか

NEWSJuly 20, 2026 15:41

 

2026年、日系製造業が直面する採用課題ーーなぜ台湾の日系企業は「即戦力エンジニア」の確保に苦戦しているのか

 

これまで長年にわたり、台湾の日系企業や多国籍製造業における人材獲得競争には、ある程度決まった構図がありました。

卒業シーズンになると、TSMCをはじめとする大手半導体企業がいち早く動き、優秀な新卒人材を積極的に採用します。その後、その他の企業が残された人材市場のなかで、それぞれの強みを生かしながら採用活動を進めるという流れです。

しかし、2026年に入り、この構図は少しずつ変わり始めています。

現在、特に注目すべき新たな採用競争の対象は、経験のない新卒人材ではありません。すでに現場で専門性を発揮し、一人で業務を任せられる「即戦力」の在職エンジニアです。

最近では、電気自動車大手のTeslaが「Terafab AIチップ計画」に関連し、台湾で9職種のエンジニア採用を開始しました。対象は、先端半導体製造において5年以上の実務経験を持つ、経験豊富な専門人材です。

募集分野は、フォトリソグラフィー(Lithography)、エッチング(Etching)、薄膜形成(Thin-film Deposition)、化学機械研磨(CMP)、歩留まり改善(Yield Engineering)、プロセス統合(Process Integration)など、半導体製造の中核領域に及びます。

一部の重要ポジションでは、7ナノメートル未満の先端プロセスや、2ナノメートル世代に関する実務経験まで求められています。

これは一般的な新卒採用ではありません。明確な技術要件と十分な予算をもとに、特定の専門人材へ直接アプローチする、非常に精度の高い採用活動です。

そして、こうした企業が採用対象としている中堅・シニア層の技術人材は、台湾の日系企業や多国籍製造業にとっても、日々の安定した事業運営を支える中心的な存在です。

企業側の視点で見ると、自社が半導体やAIエコシステムの中心にいるかどうかにかかわらず、この動きは重要な市場変化を示しています。

台湾では、経験豊富な技術人材をめぐる競争が、すでに非常に激しい段階に入っています。

予算規模の大きいグローバル企業が新たな競争相手として加わるなか、中堅・中小企業や日系企業に求められるのは、慌てて基本給だけを引き上げることではありません。

自社の強みを改めて整理し、採用と定着の両面から、より精度の高い人材戦略を構築することが重要です。

 

人材市場の新たな変化――Teslaの台湾採用が示す本当の意味

今回のTerafab関連採用で注目すべきなのは、募集人数そのものよりも、その背景にある人材市場の変化です。

Teslaは、数年をかけて新卒人材を育成するために台湾へ進出しているわけではありません。

具体的なプロジェクトと高度な技術要件を持ち、すでに即戦力として活躍できるエンジニアを、台湾の人材市場から直接採用しようとしています。

市場では、TeslaがTerafab計画を進めるなかで、Applied Materials、Tokyo Electron、Lam Researchなど、世界的な半導体製造装置メーカーに在籍する経験豊富な人材へも接触していると報じられています。

この動きからは、今回の採用が単なる試験的な募集ではなく、明確な計画と十分な資金力を背景とした戦略的な取り組みであることがうかがえます。

台湾の日系企業や精密製造業にとって、これは重要なメッセージです。

台湾の半導体・先端製造分野における中堅・シニアエンジニアは、現在、複数の資金力を持つグローバル企業から同時に注目されています。

なかには、これまで台湾に製造拠点を持っていなかった外資系企業も含まれています。

つまり、即戦力人材をめぐる競争相手は、従来から知られている台湾の大手テクノロジー企業だけではなくなっているのです。

 

なぜ中堅・シニアエンジニアの採用は、新卒採用より難しいのか

新卒採用は、大学との連携、就職博覧会、インターンシップ制度など、比較的体系化された方法で母集団を形成できます。

年間スケジュールも予測しやすく、採用後の育成計画も立てやすいという特徴があります。

一方、5年から10年程度の経験を持つ中堅・シニア層の採用は、まったく異なる考え方が必要です。

こうした人材の多くは、すでに安定した職場で働いており、社内でも重要な役割を任されています。日常的に求人サイトを確認したり、自ら積極的に履歴書を提出したりするケースは多くありません。

そのため、企業がこうした「転職潜在層(Passive Candidates)」と接点を持つには、求人を掲載して応募を待つだけでは不十分です。

対象となる人材を明確にしたうえで、直接アプローチする採用手法が重要になります。

この構造的な違いは、大手半導体企業以外の製造業に、特に大きな影響を与えます。

新卒採用が予定どおり進まなかった場合、将来の人材育成計画に遅れが生じる可能性はあります。しかし、中堅・シニア人材が退職した場合、その影響はより直接的です。

例えば、重要な製造プロセスを担当するエンジニア、生産ラインを管理する責任者、新入社員を指導する技術リーダーが離職すると、その人が長年蓄積してきた知識やノウハウも同時に失われる可能性があります。

これは、単なる一人分の欠員ではありません。

生産効率、品質管理、トラブル対応、技術継承など、事業運営のさまざまな面に短期間で影響を与えるリスクがあります。

 

2026年、3つの採用圧力が重なる台湾のシニア人材市場

2026年の台湾技術人材市場では、現在、3つの大きな採用圧力が同時に強まっています。

もともと需給がひっ迫していた市場に複数の要因が重なることで、経験豊富な技術人材の採用と定着は、これまで以上に難しくなっています。

 

2026年の台湾シニアエンジニア市場を動かす3つの主要因

人材市場への構造的な影響と、企業が直面する課題

TSMCによる2026年の8,000人規模の採用拡大

採用の中心は新卒者や若手エンジニアですが、8,000人という大規模な採用は、台湾の技術系人材市場全体に強い波及効果をもたらします。給与水準の基準が引き上げられるだけでなく、エンジニアが企業に求める待遇やキャリア機会への期待も高まっています。

メモリ半導体(DRAM)市場のスーパーサイクル

Nanya Technology(南亞科技)やWinbond Electronics(華邦電子)をはじめとするメモリメーカーでは、半導体価格や業績の上昇を背景に、生産能力を拡大する動きが進んでいます。その結果、プロセス、材料、設備などの分野で、経験を持つ中堅・シニア技術者への新たな採用需要が生まれています。

TeslaTerafabに代表される、異業種からのグローバル企業の参入

豊富なグローバルリソースと明確な先端技術プロジェクトを持つ企業が、人材育成の段階を省き、5年以上の実務経験を持つ中核的なシニア技術者へ直接アプローチしています。これにより、台湾企業や既存の外資系・日系企業は、従来とは異なる競合企業とも即戦力人材をめぐって争う状況になっています。

 

注目すべきなのは、これら3つの動きが、必ずしも日系企業や伝統的な製造業を直接の対象としているわけではないにもかかわらず、実際にはそうした企業ほど大きな影響を受けやすいという点です。

特に、最先端の半導体エコシステムの中心には位置していない中堅規模の製造業では、大手企業のように数万人単位の交代勤務体制を整えているわけではありません。むしろ、少数の経験豊富なエンジニアが、工場全体の安定稼働や技術継承を支えているケースが多く見られます。

そのため、キーパーソンとなる一人の退職が、生産性、品質管理、設備保全、トラブル対応など、複数の業務に直接影響する可能性があります。

 

シニアエンジニアは、転職先を選ぶ際に何を重視しているのか

Teslaが提示している職務要件を見ると、中堅・シニア技術者の転職動機を理解するためのヒントが見えてきます。

同社の求人では、一般的なプロセス管理能力よりも、先端パッケージングのCoWoSやSoIC、最先端のプロセスノードなど、技術の「深さ」と「先進性」が強く重視されています。

ここから読み取れるのは、経験豊富なエンジニアにとって、転職を決断する要因は給与だけではないということです。

先端技術を扱うプロジェクトに参加できるか、自身の専門性をさらに高められるか、将来の市場価値につながる技術領域を経験できるかといった点も、重要な判断材料になります。

5年以上の実務経験を積んだエンジニアの多くは、自身の専門性を今後のAIや次世代技術の成長分野へどのようにつなげるかを考え始めます。

そのため、企業がこうした人材を採用・定着させるには、新卒採用と同じ方法をそのまま当てはめるだけでは十分ではありません。

選考スピード、採用広報、初任給といった要素に加え、どのようなプロジェクトに関われるのか、どのような専門性を伸ばせるのか、どのような成果を残せるのかを、具体的に示すことが重要です。

 

日系企業・多国籍製造業が取り組みたい3つの採用・定着戦略

資金力や知名度を持つ大手テクノロジー企業との競争においても、中堅・中小の多国籍企業や日系製造業に勝機がないわけではありません。

重要なのは、給与総額だけで競争するのではなく、自社の特徴を生かした戦略を構築することです。



💡 肩書ではなく、実質的な「技術の深さ」と「プロジェクト機会」を提供する

自身の専門性を継続的に高められるか、重要なプロジェクトを任せてもらえるか、技術的な成果を実感できるかといった点が、長期的な定着に影響します。

日系企業では、海外拠点との技術連携、基幹設備の高度化、本社と共同で進める開発プロジェクトなど、企業内にある技術的な機会を整理し、候補者へ具体的に伝えることが大切です。

大手企業では業務が細かく分業されることも多いため、複数の工程や部門に関わりながら広い視野を身につけられる環境は、日系企業や中堅製造業ならではの魅力になり得ます。


💡 応募を待つ採用から、対象者へ直接働きかける採用へ切り替える

経験豊富で評価の高い在職者が、日常的に求人サイトを確認したり、就職イベントに参加したりすることは多くありません。

こうした転職潜在層へ接触するには、求人を掲載して応募を待つだけでは不十分です。

採用したい人材像を明確にしたうえで、台湾の技術系人材市場や日系企業の採用事情に詳しい人材紹介会社、ヘッドハンティング会社などと連携し、個別にアプローチすることが重要になります。

Reeracoen Taiwanのように、候補者との信頼関係や現地市場のネットワークを持つ採用パートナーを活用することで、自社の魅力や採用背景を、候補者へ丁寧かつ適切に伝えやすくなります。



💡 サクセッションプランを制度化し、特定人材への依存を減らす

中堅・シニア技術者は、製造現場の安定稼働を支える重要な存在です。

だからこそ、退職の申し出を受けてから後任探しを始めるのではなく、平常時から後継者育成を進める必要があります。

まずは、社内にどのような技術やノウハウが蓄積されているのかを整理し、個人の経験に依存している業務を可視化することが重要です。

そのうえで、マニュアルや技術資料の整備、メンター制度、計画的なジョブローテーションなどを通じて、知識を組織内に蓄積していくことが求められます。

後継者候補を早い段階から育成することで、外部からの引き抜きや突然の退職が発生した場合でも、事業運営への影響を抑えやすくなります。
 

 

まとめ:シニア人材の採用競争では、自社ならではの差別化が重要

TeslaがTerafab計画に向けて台湾でシニアエンジニアを採用している動きは、単に数件の求人が公開されたという話ではありません。

台湾の経験豊富な技術人材が、グローバルなテクノロジー企業や製造業にとって、重要な戦略資源になっていることを示しています。

一方で、日系企業や半導体以外の製造業が、必ずしも一方的に不利になるわけではありません。

重要なのは、中堅・シニア人材の転職動機が、新卒者とは大きく異なることを理解することです。

給与だけで正面から競争するのではなく、裁量のあるプロジェクト、専門性を高められる環境、国際的な業務経験など、自社ならではの価値を具体的に伝える必要があります。

さらに、外部の採用パートナーを活用した直接的なアプローチと、社内の後継者育成を同時に進めることで、採用と定着の両面から組織の技術基盤を強化できます。

こうした差別化された戦略を継続的に実行することが、2026年の厳しい人材市場を乗り越えるための重要なポイントです。

 

次のステップとして、以下の取り組みをご検討ください

🏢 【企業経営者・人事担当者の皆さまへ】

「経験豊富な技術人材が競合企業から声をかけられている」「即戦力となるシニアエンジニアを採用したいが、適切な候補者と出会えない」といった課題を抱えている企業も多いのではないでしょうか。

大手テクノロジー企業や新たに参入する外資系企業との人材競争が強まるなか、現在はエンプロイヤーブランド、採用チャネル、定着施策を改めて見直す重要なタイミングです。

Reeracoen Taiwanでは、日系企業や多国籍製造業の採用支援で培った経験をもとに、採用要件の整理、転職潜在層への直接的なアプローチ、採用プロセスの改善まで、企業ごとの課題に合わせた人材戦略をご提案します。


👉お気軽にご相談ください。貴社に適した専門人材の採用方法を一緒に検討します。

 

👥 【転職・キャリアアップをご検討中の方へ】

半導体プロセスや製造技術などの分野で5年以上の経験を積み、次のキャリアステップを検討している方にとって、現在の台湾市場にはさまざまな選択肢があります。

技術的な成長、ワークライフバランス、国際的な業務環境、裁量のあるプロジェクトなど、転職先を選ぶ際に重視する条件は人によって異なります。

大切なのは、現在の経験をどの業界や企業で生かせるのかを整理し、自身に合ったキャリア戦略を立てることです。

Reeracoen Taiwanでは、台湾の日系企業、外資系企業、一般には公開されていない技術系ポジションも含め、ご経験やご希望に合ったキャリア機会をご提案しています。

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よくあるご質問(FAQ)

Q1. TSMCは2026年にどのくらいの規模で採用を予定していますか?

A. TSMCは2026年に約8,000人の採用を予定しています。募集対象は技術系エンジニアだけでなく、管理部門を含む幅広い職種で、勤務地は桃園、新竹、苗栗、台中、嘉義、台南、高雄など台湾各地の拠点です。

Q2. 修士卒エンジニアの平均年収220万台湾ドルは、人材市場にどのような影響を与えますか?

A. この水準は市場における一つの基準となり、求職者が他社のオファーを比較する際の参考になっています。その結果、半導体関連企業だけでなく、日系製造業や外資系企業でも、人材採用や定着施策を見直す動きが広がっています。

Q3. 半導体業界以外の日系企業や中堅企業は、どのような採用戦略を取るとよいでしょうか?

A. 大手企業と給与だけで競争するのではなく、採用スピード、職種ごとの適切な報酬設計、キャリアの幅、働きやすい環境など、自社ならではの魅力を明確にすることが重要です。また、異業種出身者やポテンシャル人材を育成する視点も有効な選択肢となります。

Q4. 台湾の半導体人材不足はどの程度深刻なのでしょうか?

A. 104人資学院と工業技術研究院(ITRI)の調査によると、台湾の半導体業界では約3万4,000人規模の人材不足が続いています。特に生産オペレーションや設備保全分野では求人倍率が高く、多くの企業が大学との連携やインターンシップを強化し、早期採用に取り組んでいます。

 

 

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作者

Valerie Ong

リーラコーエングループ リージョナルマーケティングマネージャー

Valerieは、リーラコーエンのアジア地域におけるコンテンツ制作と市場インサイトの発信をリードしています。各国の専門コンサルタントチームと連携し、採用データ、給与基準、労働市場のトレンドを、台湾の雇用主とビジネスパーソンに役立つ実務的な情報へと整理しています。

その調査結果は、リーラコーエンの独自調査である「Salary Guide」「Hiring Pulse」

「Hiring Manager Survey」などをもとにしています。

 

參考資料

  • Tesla Poaching From TSMC? Terafab Project Recruitment in Taiwan Targets Top Semiconductor Talent,” TradingKey, 17 April 2026
  • TSMC's 8,000-Engineer Hiring Push: What It Means for Taiwan's Talent Market in 2026, Reeracoen Taiwan (internal reference, July 2026)
  • Memory Chip Boom: Why DRAM and Wafer Materials Roles Are Taiwan's Hottest Career Bet Right Now, Reeracoen Taiwan (internal reference, July 2026)

 

 

Disclaimer

This article is intended for general informational purposes only and reflects market observations at the time of publication. Labour market conditions, hiring trends, and salary benchmarks may vary by industry, company size, and economic environment. Statistics and data referenced from third-party sources are attributed to their respective publishers. Readers are encouraged to verify specific details and seek professional advice before making employment or business decisions. No part of this article may be reproduced without prior written permission from Reeracoen Singapore Pte. Ltd.