人材不足時代の新しい採用戦略!なぜ半導体大手は「完璧な人材」だけを求めなくなったのか?
人材不足時代の新しい採用戦略!なぜ半導体大手は「完璧な人材」だけを求めなくなったのか?
これまで台湾の半導体業界では、明確に定められた職務内容(Job Description)に基づき、限られた有名大学・理工系学科の卒業生を重視し、条件にほぼ完全に合致する人材が現れるまで採用を慎重に進めるケースが少なくありませんでした。しかし近年、こうした採用の考え方にも変化が見られています。
たとえば、TSMC(台湾積体電路製造)が2026年に8,000人規模の採用を計画していることが報じられています。採用対象は、従来の中核領域である電気・電子・材料工学だけでなく、経営管理、人事、財務・会計など、文系・管理系の分野にも広がっています。台湾を代表する半導体企業が幅広い領域から人材を求めるようになっている背景には、どのような変化があるのでしょうか。また、同じく技術人材の採用に取り組む企業にとって、どのような示唆があるのでしょうか。
構造的な人材不足
半導体企業が採用対象を広げている背景の一つに、人口構造の変化があります。少子化の影響により、台湾国内の新卒人材の供給増加ペースが、半導体工場の生産能力拡大に十分追いついていない状況が続いています。
こうした状況を受け、経済部産業園区管理局(IDA)は、ASE(日月光)やMicron(美光)などの半導体企業と連携し、海外人材の育成・受け入れを目的とした国際人材育成プログラムを進めています。大手企業も採用対象を国境や専攻分野を越えて広げていることから、業界全体の人材獲得のあり方が変化しつつあることがうかがえます。
台湾労働部(MOL)が2025年に初めて実施した全国求人調査によると、台湾全体の求人件数は27.6万件に上り、なかでも製造業は人手不足が特に大きい産業とされています。また、欧州のシンクタンク「安全保障・開発政策研究所(ISDP)」の研究では、半導体関連の求人は、生産・品質管理、研究開発(R&D)、オペレーション、技術サポート、設備保全などに集中しており、これらは人材需要の伸びが大きい分野とされています。
こうした産業ニーズに対応するため、台湾では少なくとも13の大学が半導体学院や専門プログラムを設置し、そのうち8校が海外学生を呼び込む国際奨学金プログラムに参加しています。政府も「青年就業旗艦計画」などを通じ、スキルのミスマッチ緩和に取り組んでいます。こうした動きからも、台湾半導体業界の人材課題は、単純に「応募者が少ない」というだけではなく、市場に存在する人材のスキルや経験と、急成長する企業が求める要件との間に構造的なミスマッチ(Skills Mismatch)が生じていることが分かります。
Reeracoen雇用主展望レポート:在台日系企業が直面する採用課題
**Reeracoenの調査は在台日系企業を対象としており、台湾のすべての企業を代表するものではありません。一方で、人材のミスマッチという大きな傾向は、台湾労働部や独立系研究機関が指摘する構造的な人材不足とも共通しています。
Reeracoen Taiwanが発表した『2026 台湾採用動向展望レポート』(在台日系企業の上級管理職183名を対象)では、回答企業の約半数が「人材のミスマッチ(応募はあるものの、条件に合う人材が少ないこと)」を主要な採用課題として挙げています。「応募者数そのものの不足」以上に、求める人材との適合度が課題になっていることがうかがえます。
この傾向は、台湾労働部やISDPの研究とも方向性が重なります。人材需要が大きい一方で、企業が求める条件と市場の人材供給との間には、一定のギャップが存在しています。
「完璧な候補者」に限定しない採用へ:見直したい4つのポイント
採用対象を広げることは、採用基準を下げることではありません。むしろ、要件の中で「業務上、本当に欠かせない条件」と「入社後に習得可能な条件」を整理することが重要です。TSMCが2026年に示した採用対象も、技術系分野に加え、工程管理、経営管理、人事、会計など幅広い領域に及んでいます。採用の選択肢を広げる際には、次のような視点が参考になります。
- 実務スキルと学歴・専攻を分けて考える:
専攻している学科などが完全には一致していなくても、設備や製造プロセスに関する実務経験が豊富な人材であれば、業務との相性が高い場合があります。学位や専攻だけでなく、実際にどのような業務を経験してきたかをあわせて確認することが有効です。
- 周辺業界の人材にも目を向ける:
従来型の製造業、電子組立、材料加工などの経験者は、工程管理の考え方、品質管理の仕組み、設備操作など、半導体分野でも活かせるスキルを持っていることがあります。こうした移転可能なスキルに着目することで、候補者の幅を広げられる可能性があります。
- 面接では学習力・適応力も確認する:
半導体製造では、プロセス技術や使用ツールが継続的に進化しています。そのため、現時点の経験だけでなく、新しい知識を吸収する力や変化に対応する力も、採用時に確認したいポイントです。
- 体系的なオンボーディング・研修体制を整える:
経験がすべての要件を満たしていなくても、基礎能力や関連経験を持つ人材が早期に活躍できるよう、教育・研修の仕組みを整えることも一つの方法です。採用と育成をセットで考えることで、候補者層を広げやすくなります。
人材ミスマッチの解消に向けて:雇用主ブランドと企業の魅力発信
Reeracoenの調査からは、人材のミスマッチへの対応は、給与水準の見直しだけで完結するものではないこともうかがえます。待遇面に加えて、雇用主ブランド(Employer Branding)、業界・事業の魅力、入社後のキャリアパスを分かりやすく伝えることが、求人の魅力を高めるうえで重要です。
特に台湾でエンジニアや技術人材を採用する日系企業にとっては、大手半導体企業と同じ市場で人材を獲得する場面もあります。そのため、採用対象の見直しとあわせて、自社ならではの働く魅力やキャリア形成の機会を、台湾の求職者に分かりやすく発信することが重要です。「なぜこの会社で働くのか」を具体的に伝えられることが、採用競争力の向上につながります。
よくある質問 Q&A
Q1:なぜ台湾の半導体企業では採用対象を広げる動きが見られるのでしょうか?
A:背景の一つとして、産業の拡大スピードに対し、従来の採用要件に完全に合致する人材の供給が十分ではないことが挙げられます。
TSMCが2026年に8,000人規模の採用を計画している事例では、採用対象が経営管理、人事、財務・会計など非理工系分野にも広がっています。また、台湾労働部の調査では、製造業の人手不足が大きいことも示されています。
Q2:台湾半導体業界の採用課題は、主に「応募者が少ないこと」なのでしょうか?
A: 必ずしもそれだけではありません。Reeracoenの2026年調査では、在台日系企業の約半数が「人材のミスマッチ(応募はあるものの、条件に合う人材が少ないこと)」を主要な課題として挙げています。応募数に加え、企業ニーズとの適合度が重要な課題となっています。
Q3:この調査結果は台湾全体の企業に当てはまるのでしょうか?
A:Reeracoenの「人材ミスマッチ」に関する調査は、台湾で事業を展開する日系企業を対象としたものです。一方、台湾労働部や独立系の労働市場研究機関が指摘する構造的な人材不足は、台湾の製造業・半導体産業全体に関わる傾向として示されています。
Q4:どのような周辺業界の経験者が半導体業界への転職候補になり得ますか?
A:従来型の製造業、電子組立、材料加工などの経験者は、工程管理、品質管理システム、設備操作などのスキルを持つ場合があります。これらは半導体の生産や歩留まり改善にも活かしやすい移転可能なスキルです。
Q5:企業が人材のミスマッチを減らし、採用成功率を高めるためには何ができますか?
A:競争力のある給与水準に加え、自社の魅力を明確に伝える雇用主のブランド力、実際の市場に即した職務内容(JD)の設計、専門の採用コンサルタントを活用した候補者探索などを組み合わせることが有効です。
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作者
Valerie Ong
リーラコーエングループ リージョナルマーケティングマネージャー
Valerieは、リーラコーエンのアジア地域におけるコンテンツ制作と市場インサイトの発信をリードしています。各国の専門コンサルタントチームと連携し、採用データ、給与基準、労働市場のトレンドを、台湾の雇用主とビジネスパーソンに役立つ実務的な情報へと整理しています。
その調査結果は、リーラコーエンの独自調査である「Salary Guide」「Hiring Pulse」
「Hiring Manager Survey」などをもとにしています。
參考資料
- Reeracoen Taiwan:《2026 台湾採用動向展望レポート》(第 15 版),Reeracoen Taiwan Co., Ltd. 2026 年 5 月發布。
- 中央通訊社(CNA / Focus Taiwan):TSMC 2026 招募計畫官方聲明報導
- 中央通訊社(CNA / Focus Taiwan):勞動部全國職缺調查結果報導
- 歐洲安全與發展政策研究所(ISDP):《Taiwan's Labor Shortages in Key Sectors and the Skill Mismatch》研究報告

Disclaimer
This article is intended for general informational purposes only and reflects market observations at the time of publication. Labour market conditions, hiring trends, and salary benchmarks may vary by industry, company size, and economic environment. Statistics and data referenced from third-party sources are attributed to their respective publishers. Readers are encouraged to verify specific details and seek professional advice before making employment or business decisions. No part of this article may be reproduced without prior written permission from Reeracoen Singapore Pte. Ltd.




